東京地方裁判所 平成10年(ワ)3804号 判決 1999年6月15日
第一事件原告
星野俊二
被告
加藤栄子
ほか一名
第二事件原告
星野俊二
被告
株式会社千葉観光
主文
一 被告加藤栄子及び被告株式会社千葉観光は、連帯して、原告に対し、金二四五万九〇〇八円及びこれに対する平成九年一二月一六日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告の被告エアポートシャトルバス株式会社に対する請求の全部及び被告加藤栄子及び被告株式会社千葉観光に対するその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、原告に生じた費用の二分の一並びに被告加藤栄子及び被告株式会社千葉観光に生じた費用の三分の二を被告加藤栄子及び被告株式会社千葉観光の負担とし、原告に生じた費用の二分の一、被告加藤栄子及び被告株式会社千葉観光に生じた費用の各三分の一並びに被告エアポートシャトルバス株式会社に生じた費用の全部を原告の負担とする。
四 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
(第一事件)
一 被告らは、各自、原告に対し、金三六五万一二三二円及びこれに対する平成九年一二月一六日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
(第二事件)
一 被告は、原告に対し、金三六五万一二三二円及びこれに対する平成九年一二月一六日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、後記の交通事故につき、被告加藤栄子(以下、「被告加藤」という。)に対しては民法七〇九条に基づき、被告エアポートシャトルバス株式会社(以下、「被告シャトルバス」という。)及び被告株式会社千葉観光(以下、「被告観光」という。)に対しては民法七一五条に基づき、原告が被った損害の賠償を求めている事案である。
一 争いのない事実及び証拠上明らかな事実
1 交通事故(以下、「本件事故」という。)の発生
(一) 日時 平成九年一二月一六日 午後零時一五分ころ
(二) 場所 東京都目黒区下目黒一―六―一八の交差点付近(以下、「本件現場」という。)
(三) 加害車両 被告加藤運転の大型乗用自動車(バス、千葉二二か二五九六、以下、「加害車両」という。)
(四) 被害車両 原告運転の普通乗用自動車(品川三五た一一二〇)
(五) 態様 片側二車線の道路の左側車線を被害車両が通行中、被告加藤の運転する加害車両が左折しようとして、加害車両の左側面と被害車両の右側面が接触・衝突した。
2 被告加藤は被告観光の従業員であり、また、加害車両の所有者も被告観光である(乙第一及び第二号証)。
二 争点
本件の争点は、次のとおりである
1 被告加藤が本件事故について責任を負うか。
2 被告シャトルバスが責任を負うか。
3 被告加藤に責任がある場合に原告に過失相殺事由があるか。
4 損害額の算定
第三当裁判所の判断
一 被告シャトルバスの責任について
前述のとおり、被告加藤は被告観光の従業員であるから、被告シャトルバスと被告観光が同一系列の会社(本店所在地が同じで、役員もほとんど同じ)であって、仮に被告加藤の責任を肯定したとしても、被告シャトルバスが本件についての損害賠償責任を負うとは言えず、他に被告シャトルバスが本件につき責任を負うと認めるべき証拠もない。
したがって、被告シャトルバスに対する請求は理由がない。
二 被告加藤の責任及び過失相殺の有無(本件の事故態様)
1 原告は、本件事故の態様につき次のように説明している(原告本人)。
すなわち、原告運転の被害車両は、片側二車線の左側の車線を直進し本件現場に向かっていたが、その三台位前に加害車両がおり、加害車両は本件現場の数十メートル手前で進路を右側車線に変更した。信号は青だったので、被害車両の前にいた車両は加害車両が右側に車線変更した際に加害車両の横を通過していったが、被害車両が交差点に差し掛かろうとすると、加害車両が左側に進路を変更するためのウインカーを出したので停止したが、停止した地点は既に停止線を越えて横断歩道上であった。加害車両はその後左折を開始し、危険を感じた原告はパッシングと警笛を鳴らしたが、加害車両はなお接近してきて被害車両の右側面に加害車両が衝突し、さらに、加害車両が後退したときにも接触した。被害車両の後ろには既に車両がつながっており、後退して加害車両を避けることはできなかった。
これに対して、被告加藤は、やはり左側車線を本件現場に向かって進行し、本件現場の交差点を左折するべく、車両前部を右側に振り、右側車線と左側車線を跨ぐように走り、左サイドミラーで左後方から車両が来ないのを確認して左のウインカーを出しながら徐行して交差点に入って左折したところ、進行方向の横断歩道上を歩行者が横断していたので、横断歩道の直前で車体を左斜めにして停止していたところ、後方から被害車両が左側に割り込んできて二度衝突したと事故の状況を説明している。
2 双方の運転手の事故状況に対する説明を検討してまず指摘できるのは、被告加藤の説明が経験則に照らし、信用しがたいことである。
被告加藤の説明によれば、原告は、進路前方を大型バスが塞いでいたのに、停止することなく進行し二度も衝突したことになる。本件現場付近で大型バスが左折するために進路を塞いでいれば、後続車の運転手は間違いなくこれを目にするであろうから進行して来て衝突することなど考えにくいし、仮に発見が遅れて衝突したとしても二度も衝突することなど考えられない。
また、右の点以外にも、被告加藤の説明には理解に苦しむ部分が存在している。たとえば、衝突後、加害車両と被害車両が接触している状態の時に原告が加害車両にやってきたと明言しているが、右側面は加害車両と接触しており、左側は歩道と車道の間のガードがあるから、果たして原告が車外に出られるか疑問のあるところである。
本件事故によって生じた車両の損傷状況は、被害車両の修理前の状態を明確にできる写真等がないのは残念であるが、加害車両の損傷を見る限り、かなり長い擦過痕が残っている(乙第四号証)。これも、被告加藤の説明する二度の衝突によってできるとは考えにくい。なぜなら、被告加藤の説明するような形で衝突したのであれば、こすったような傷になるのではなく、ある特定の部分の凹損になるはずであり、加害車両に擦ったような長い傷があるのは、原告が説明する衝突後に加害車両が後退した際にできたものと考えるのが合理的である。なお、被告加藤自身も、衝突後ハンドルを右に切って後退したこと自体は認めている。
これに対して、事故状況に関する原告の説明は一貫しており、加害車両の損傷の形状とも合致する。
3 以上によれば、被告加藤が、本件現場の交差点を左折する際に、後続直進車の有無・安全等を確認した上で左折する義務があるのにこれを怠って左折を開始し、原告がクラクションを鳴らすなどして注意を喚起しているのにそのまま左折進行したため、加害車両の左側面を被害車両の右側面に接触させ、さらに、車両を離そうとして後退した際にも接触させたものと推認することができる。
したがって、被告加藤には本件事故による損害を賠償すべき責任があるし、被告観光も、被告加藤の業務執行中の事故につき使用者として責任を負うものである。
4 次に、過失相殺の有無につき判断する。
被告加藤が述べるように、加害車両は本件現場の交差点で左折する予定であり、被告加藤は本件現場付近を何度も通って知っているのであるから、本件現場の手前にいたって左側車線から右側車線に車線変更をしたと言っても、あくまでも左折するために必要な範囲であったと推認できる。
このような場合、後続車としても先行車の動静を注意し、特に大型バスの場合、あまり大きくない交差点では大回りしないと曲がりきれないことを考慮する必要がある。したがって、交差点に相当進入した地点で停止するのではなく、加害車両が左折にはいる前に交差点を通過するか、さもなければ、交差点に進入する前の地点で停止して加害車両の左折が終わるのを待ってから進行すべきであったと言えよう。
右のような意味で原告にも若干の落ち度があると考えられるが、原告は、事故の危険を感じて警笛をならすなどの回避行動も実行しており、これに反応しなかった被告加藤の過失は相当大きいと言わざるを得ないから、これらを総合的に勘案して、過失相殺の割合は一割にとどまるものと判断される。
三 損害額
結論を明示するために各損害項目ごとに冒頭に結論を示し、括弧内に原告の請求額を記載する。
1 修理費 金一九〇万二二三二円(原告の請求どおり)
甲第二号証によれば、原告請求どおりの修理代がかかっていることが認められる。
たしかに、甲第一一号証及び証人角田靖雄の供述によれば、被害車両の損傷は主として右側面に限定されており、また、もう一方の衝突車両である加害車両の損傷部位をも考慮する(乙第四号証)と、激しい衝突であったとまで言えるかは疑問であり、甲第二号証の修理代が、修理内容として適正か、代金額が相当かという疑問はあり得る。
しかし、事故に遭った車両を修理した際に、事故による損傷ではないことが明らかな箇所を修理したり、不当に高価な部品を用い、不当に高額な部品代または工賃を計上するなどの場合を除けば、通常相当な修理がなされたものと考えることができ、本件においては、甲第二号証を覆すに足る証拠はない。
2 代車料 金四五万円(金一二九万円)
原告は、代車代として一日三万円として四三日間の請求をしている(甲第二号証)。
これは、ベンツ三〇〇Eを代車として使用したものであるが、原告が英国のドッグショップであることを考慮しても、代車にレンジローバーと同等の外車を使用する必要性は認められず、商品である犬を乗せて移動することを考慮してもせいぜい一日一五〇〇〇円までであり、使用期間も途中支払いの件で被告観光の方から修理を一時中断した経過があり(甲第一〇号証)、また、修理期間中が年末年始にかかったという点を考慮しても、修理期間としては三〇日が相当である。
したがって、代車料金としては四五万円を認めることができる。
3 評価損 金三八万円(四五万九〇〇〇円)
被害車両は、平成八年一〇月二二日初度登録の外車レンジローバーであり、甲第六号証(中古自動車事故減価額証明)によれば、平成一〇年六月四日現在で評価損が金四五万九〇〇〇円とされている。
しかし、被害車両は事故時において初度登録から約一年二か月経過していることや本件事故による損傷部位等を考慮すると、評価損が生じていることは肯定できるが、その額は修理代金のおよそ二割である金三八万円と認めるのが相当である。
4 損害賠償額 金二四五万九〇〇八円
以上損害額として認定された金額を合計すると二七三万二二三二円となるところ、前述のように一割を過失相殺するから、最終的な損害賠償額は二四五万九〇〇八円である。
第四結論
以上の検討により、原告の被告加藤及び被告観光に対する請求は、金二四五万九〇〇八円及びこれに対する平成九年一二月一六日から各完済に至るまでの年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があり、その余の請求(被告シャトルバスに対するものも含む)は理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 村山浩昭)